[税金]所得税法・法人税法等

サラリーマンから個人事業主・会社まで所得税・法人税等の確定申告の便覧に。税務ハンドブックとして税金対策にも役立ちます。


必要経費―繰延資産


繰延資産とは

繰延資産の定義・意味など

繰延資産(くりのべしさん)とは、貸借対照表の区分表示のひとつで、本来であれば費用処理すべきものを、将来の数期間に影響する特定の費用に限っては、減価償却または費用の繰延と同様の趣旨で、これを通常の費用の場合と区別して資産として計上し、その計上した資産について償却という手続き(→繰延資産の償却)をとることによって、費用の効果の及ぶ会計期間の費用として処理をすること(翌期以降に繰り延べること)を認めた資産をいう。

会計上の定義
企業会計原則の定義

企業会計原則では「将来の期間に影響する特定の費用」と定義されている。

将来の期間に影響する特定の費用は、次期以降の期間に配分して処理するため、経過的に貸借対照表の資産の部に記載することができる。

そして、「将来の期間に影響する特定の費用」については次のように定義されている。

「将来の期間に影響する特定の費用」とは、既に代価の支払が完了し又は支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用をいう。

つまり、「将来の期間に影響する特定の費用」とは、

  1. 既に代価の支払が完了し、または、支払義務が確定し
  2. これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず
  3. その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用

となる。

なお、実務対応報告書第19号「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」(1982年以来改訂が行われていない企業会計原則における繰延資産会計の現代版)においても、上記繰延資産の考え方を踏襲するとある。

中小企業の会計に関する指針の定義

繰延資産とは、既に代価の支払が完了し又は支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用を資産として繰り延べたものをいう。

法上の定義
所得税法の定義

所得税法では次のように定義されている。

(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

二十  繰延資産 不動産所得事業所得山林所得又は雑所得を生ずべき業務に関し個人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもので政令で定めるものをいう。

法人税法の定義

法人税法では次のように定義されている。

(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

二十四  繰延資産 法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもので政令で定めるものをいう。

繰延資産の位置づけ・体系(上位概念等)

資産

繰延資産は資産のひとつである。

なお、貸借対照表上の資産は、一般に流動と固定に大別される。

この区別基準として、企業会計原則(企業会計原則注解・注16)は次の2つを規定している。

  1. 正常営業循環基準(営業循環基準)
  2. 1年基準(ワン・イヤー・ルール)

企業会計原則注解
〔注16〕流動資産又は流動負債と固定資産又は固定負債とを区別する基準について
受 取手形、売掛金、前払金、支払手形、買掛金、前受金等の当該企業の主目的たる営業取引により発生した債権及び債務は、流動資産又は流動負債に属するものと する。ただし、これらの債権のうち、破産債権、更正債権及びこれに準ずる債権で一年以内に回収されないことが明らかなものは、固定資産たる投資その他の資 産に属するものとする。

ただし、期間損益計算を正しく行うためには、さらに繰延資産も考慮する必要がある。

そこで、企業会計原則などでは、資産を流動資産固定資産繰延資産の3つに分類し、さらにそれぞれを細分化している。

  1. 流動資産
  2. 固定資産
    1. 有形固定資産
    2. 無形固定資産
    3. 投資その他の資産
  3. 繰延資産

企業会計原則
(貸借対照表の区分)
 貸借対照表は、…、さらに資産の部を流動資産、固定資産及び繰延資産に、…区分しなければならない。

会社計算規則
(資産の部の区分)
第七十四条  資産の部は、次に掲げる項目に区分しなければならない。この場合において、各項目(第二号に掲げる項目を除く。)は、適当な項目に細分しなければならない。
 流動資産
 固定資産
 繰延資産

費用の繰延べ

繰延資産は費用の繰延の一種ともいえる。

繰延資産の目的・役割・意義・機能・作用など

費用収益対応の原則

代価の支払が完了等し、役務の提供も受けている費用は、本来はその期の損益計算書で費用処理されるべきである。

しかし、収益を得るために支出した費用の中には、その支出した費用の効果が次年以降に及ぶ(将来にわたって及ぶ)ような場合がある。

そこで、こうした場合は、費用を将来の収益と対応させるために、費用収益対応の原則にもとづき、これをいったん資産として計上し、その計上した資産につき償却(費用化)という手続きをとることで、一時期にかかった費用を次期以降に配分することを認めたものである。

つまり、繰延資産は、減価償却または費用の繰延と同様の趣旨で、本来であれば費用処理すべきものを資産として計上し、翌期以降に繰り延べることが認められているものである。

具体的には、支出額とその支出の効果が及ぶ期間を基礎として、無形減価償却資産の償却の方法(残存価額を0とし、定額法による。)に準じて計算した償却費を、各年分の必要経費に算入等することになる。

繰延資産の分類・種類

繰延資産は、会計上の繰延資産税法上の繰延資産とがある。

  1. 会計上の繰延資産会社法上の繰延資産
  2. 税法上の繰延資産
    1. 所得税法上の繰延資産
    2. 法人税法上の繰延資産

なお、会計上の繰延資産の範囲と税法上の繰延資産の範囲は異なる。

税法上の繰延資産から、会計上の繰延資産に該当するものを除いたものが税法独自の繰延資産ということになる。

繰延資産の類似概念

固定資産棚卸たな卸)資産
財産的価値の有無

繰延資産は、貸借対照表上、資産に分類・計上されるが、固定資産などと異なり、財産的価値を有していない(換金性がない)点に注意。

減価償却
任意・強制

繰延資産と減価償却との違いは、前者が任意であるのに対し、後者は法的に強制されている点にある。

ただし、法人税法上の減価償却任意償却とされている(法人税法31条)。

前払費用
役務の提供の有無

繰延資産と前払費用との違いは、代価の支払が完了し、または支払義務が確定した時点で、すでに役務の提供を受けているか否かという点にある。

繰延資産の注意点・注意事項

繰延資産は、要は家計簿的な収入・支出ベースによる管理から会計的な収益・費用ベースによる管理への変換のために用いられる勘定科目であるが、あくまでも概念的な処理であることに注意すること。

すなわち、繰延資産は「資産」として位置づけられてはいるが、財産的価値(換金性)はない。

したがって、概念的な収益・費用ベースによる管理では損益計算書上は収益があがっているのに、現実には手元にお金がないという事態もありうるので注意を要する。



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